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脳神経外科

TOP / 診療科・部門 / 診療科 / 脳神経外科 / 脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の総称)とその関連疾患

脳梗塞

脳梗塞

脳の一部に血液が十分に流れなくなる状況が出現し脳組織が壊死に陥る疾患、大きさは小さなものから大きなものまで

脳卒中の3/4をしめます。脳を養う動脈が閉塞することにより生じることがほとんどです。心臓に近いほど太い動脈になりますが、どの部位においても脳梗塞の原因となります。太い血管であればあるほど重篤な症状になる可能性が高いですが、脳幹や錐体路(手足の運動を司どる神経が束になって通る部位)、言語中枢などに脳梗塞が生じると小さなものでも重篤な神経症状を引き起こすことになります。末梢の細い0.5mmの細い血管が閉塞しても脳梗塞ですが、無症状で経過している場合があります。一番頻度が高いのは高血圧ですが、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙、などの危険因子と呼ばれるこれらの疾患や習慣を放置しておくと動脈硬化症が進行して脳を養う主要な動脈の内腔が狭くなり発症します。

また年齢が高くなると心房細動などの不整脈に伴う心臓由来の血栓が原因で発症することが多くなり80歳以上ではこれが脳梗塞発症の原因の第1位になります。一方で症状が非定型的で確定診断を得るに時間を要する静脈性の脳梗塞があります。極めて稀なものですが静脈洞(脳の静脈が集まり静脈血が流れる硬膜(脳を包む丈夫な膜)で囲われている太い道)が閉塞する、硬膜動静脈瘻(稀な疾患ですが、脳血管内治療の進歩により根治可能な疾患になっています)に合併して静脈性梗塞が出現することがあります。

診断と治療

多くは頭部CTと頭部MRI/MRA(脳血管を描出)検査を行うことで診断がつきます。血管の情報をより詳しく知りたいときには、脳血管造影検査を実施します。脳血流量の評価が必要と判断した場合はSPECT(IMP-定量)検査を実施します。太い動脈(例えば内頸動脈)の狭窄(動脈硬化症で内腔が狭くなっている状態)が原因となる場合は、血管内手術により血管を拡張する手術を計画します。

細い血管の場合はこうした介入治療は困難で、内科的治療(抗血栓療法と危険因子となる高血圧などの基礎疾患の治療)を行います。言語障害や手足の運動障害など、神経症状が持続する場合はリハビリテーションにより機能回復を目指します。

脳内出血

脳内出血

脳実質の中に破綻した血管から血液が流出して血腫塊を形成した状態

血圧が高いために脳を養う細い動脈の先端部が傷つきその後破綻して出血が生じます。かつての日本人の死因の第一位を占めた疾患(高血圧性脳内出血)ですが、血圧に関心を持つ人が増え、降圧薬の進歩によりより効果的降圧が得られるようになってこの疾患も著しく減少しています。脳実質の中に一瞬のうちに血液が出てくるので、脳実質を破壊しあっという間に神経症状を呈します。

場所と大きさにより神経症状(片麻痺、言語障害、感覚障害、視野障害など)が異なりますが、多くの場合に手術の対象にはなリません。(手術を行っても神経症状の改善に寄与しないことが多いことが明らかになっています。)救命目的や出血した部位が良くて手術の効果が得られると判断される場合に脳内血腫除去術が計画されます。

昨今の高齢化でこうした高血圧が原因で出血するのではなく、アミロイドアンギオパチーと呼ばれる末梢の細い動脈にアミロイドベータの沈着が原因で破綻出血する例が目立ってきました。この場合も手術加療を計画することは稀です。

診断と治療

多くは頭部CTで診断がつきます。MRI/MRA検査を行うことで、より明瞭に診断がつきます。上記の脳内出血以外にも脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、もやもや病、海面状血管腫、静脈洞閉塞症などで脳内出血をきたすことがあり、必要に応じて脳血管造影検査を行うことで確定診断を得ることができます。

多くの脳内出血は高血圧性ないしアミロイドアンギオパチーと呼ばれる微小血管の破綻によるため血腫塊が大きくなければ同じ部位から繰り返し出血することは考えにくく、血腫塊により破壊された脳の機能回復は難しいために、機能の回復が期待できる場合や生命予後を改善させる場合に手術による血腫塊の摘出が計画されます。

しかし、脳動脈瘤や脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、海綿状血管腫、静脈洞閉塞症など特別な場合には手術計画する必要が出てきます。原因となる血管が太く内科的治療では繰り返し出血する懸念があり、それによって致命的ないしさらに重い神経症状を呈することになるためです。

くも膜下出血

ほとんどの原因が脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)と呼ばれる脳を養う動脈の分岐部にできる瘤(こぶ)が原因です。瘤自体は痛みも何も症状を出さないですが、破れるとくも膜下腔に動脈性に出血をきたします(くも膜下出血)。突然の強い頭痛で発症し、出血が大きいといきなり昏睡状態、心肺停止に至ることもあります。50歳以下の若年死因の1位を占める疾患です。破裂して病院に運ばれてから社会復帰できる割合は1/3程度と言われる疾患です。そのために、破裂する前の脳動脈瘤を発見して破裂前の脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)を治療する予防的手術も盛んに行われています。

診断と治療

頭部CTで診断がつきます。稀に出血の程度が少ないと、自ら歩いて頭痛を主訴に病院受診する場合があり、こうした軽症例でCTで診断がつかないことがあります。この場合は病歴が重要となリます。MRI/MRA検査、腰椎穿刺による髄液検査でキサントクロミーを確認する必要がでてきます。症状が軽くても再破裂しくいというわけではないので、見落とすと致命的となる場合があります。

当科では脳血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)で治療することがほとんど(約80%)ですが、脳内出血を伴っている場合など一部の例で開頭術を行い脳動脈瘤ネッククリッピング術を行っています。脳血管内手術の方が手術侵襲が少なく回復が良いことが大規模臨床試験で明らかにされています。未破裂脳動脈瘤についても同様に脳血管内手術で治療する場合が多く、中大脳動脈分岐部瘤などでネッククリッピング術の方がリスクが低いと考えられる例にはこれを行います。未破裂瘤の場合は手術が何事もなく達成できれば数日で退院できます。

しかし、くも膜下出血の場合は手術が無事に終了しても頭蓋内に広がったくも膜下出血から回復するには早くても3週間の加療が必要で、多くは1〜2ヶ月を要します。重症で神経症状を呈している場合はその後のリハビリテーションが必要で、退院まで多くの時間が必要です。

関連疾患

以下の関連疾患により、上記の脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血をきたすことがあります。いずれも稀な疾患でありながら、内科的に治療する手立てがないために介入治療を計画することが良いと判断する場合があります。

硬膜動静脈瘻

脳を包む硬膜と呼ばれる丈夫な厚い膜を養う動脈がその静脈と短絡(シャント)を形成して、頭蓋内の静脈に動脈血が逆流するという疾患です。珍しい疾患で年間100万人あたり数人という疾患です。脳の様々な部位の硬膜に生じ、その部位特有の症状を引き起こします。脳血管内治療が登場するまでは、治療困難な疾患の一つでした。マイクロカテーテルがシャント近傍まで誘導することができるようになり、根治できる疾患になりました。解剖学的に治療が難しい場合もありますが、脳血管内手術の進歩により日々この領域が克服されてきています。

脳動静脈奇形

脳実質の動脈と静脈が短絡(シャント)を形成する疾患。シャントを形成する部位(ナイダス)が大きくて言語や手足を動かす領域に存在すると治療が難しくなります。(手術合併症と本体からの出血により神経症状が出現する割合のどちらが高いかの判断が難しい。)破裂脳動脈瘤の1/10の頻度で稀なものです。てんかん発作で発症することが多いですが、上記脳内出血、くも膜下出血で発症することも多い。脳血管内手術、開頭術による脳動静脈奇形摘出術、それらを組み合わせて治療することが選択されますが、根治を達成する際に生じるリスクと疾患本体の出血のリスクの割合がどちらが高いかの判断が難しい場合があります。

海綿状血管腫

脳実質に海綿状に拡張した毛細血管の塊(桑の実に似た多房性の形)が生じ、ここから出血をきたす疾患です。てんかん発作、頭痛、が主訴となることがあります。脳実質の至る所(大脳、小脳、脳幹)に生じます。人口の0.5%程度の頻度で、約80%は孤発性で遺伝とは無関係ですが、残りの20%は家族性であると言われ、遺伝的素因を持ちます。偶然に発見されても症状がなければ経過観察を行いますが、神経症状が出現する場合には摘出を計画する場合があります。この場合も発生した部位により摘出に伴う神経症状出現のリスクと出血するリスクの割合がどちらが高いのか判断が難しい場合があります。

もやもや病

脳を養う最も太く主要な内頸動脈の終末部が徐々に細くなっていく疾患で、その原因について詳しくはわかっていません。5~10歳の子供の時に脳梗塞の前触れの時のような手足の脱力や言語障害ないしてんかん発作で発症する時期と、35~45歳の成人で発症する2峰性があることが知られています。成人では脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの出血性病変で発症することが多いですが、脳梗塞やてんかんで発症することもあります。MRI検査で偶然に発見されるも無症状の成人も多く、治療介入しないで経過観察するのみの成人例も多いです。子供の時に発症するもやもや病は、バイパス手術(直接吻合術、間接吻合術)が行われています。

頭部外傷と関連疾患

頭部を打撲する状況は、高齢の患者さんであれば、足腰が弱って転倒することで生じることが多くなっています。高齢の方は、他の疾患を持ち抗凝固薬や抗血小板薬と呼ばれるいわゆる血栓を作りにくくする薬(言い換えると、止血に時間がかかる)を服薬している場合が多く、この場合には通常では大事に至らないレベルの頭部打撲であっても、止血に時間がかかるために頭蓋内に大きな出血をきたしてしまうことが懸念されます。

慢性硬膜下血腫

軽い頭部打撲であっても、1〜2ヶ月経過した時点で脳の表面に液状血腫が貯留する疾患。頭痛、めまい、ふらつき、歩行時の傾き、上下肢の脱力、聴力低下、かすみ目など様々な症状で発症します。ゆっくりと血液が貯留するためになかなか本人も気がつかないことが多くいよいよとなって発見されることが多いようです。治療は、局所麻酔下に穿頭術を行い血腫を洗い出すことで85%は治癒します。再貯留する場合はもう一度手術を行うことで80%以上は治癒します。脳神経外科領域で一番多く実施される手術で一番予後の良い疾患です。漢方薬の内服や再発例に対して、脳血管内塞栓術を計画することがあります。

脳挫傷、外傷性脳内血腫、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、外傷性くも膜下出血

頭部を強く打撲する(転落、転倒、交通事故など)ことで生じうる、頭蓋内の出血性疾患です。その複数が合併することも珍しくありません。脳実質が挫滅する脳挫傷、衝撃により脳血管が損傷し脳実質に出血する外傷性脳内血腫、脳を包む一番丈夫な膜である硬膜の下に出血する急性硬膜下血腫、その外に出血する急性硬膜外血腫、これらはいずれも急激に脳を圧迫し脳ヘルニア(血腫により脳が押されて潰れてしまう)をきたして致命的になります。この場合一刻を争って開頭血腫除去術を行う必要がありますが、血腫の増大が早い、抗凝固薬を服薬している、発見までに時間がかかるなど、条件が厳しいために予後が厳しい疾患です。上記頭蓋内出血の程度により、様々な症状が出現することになります。いずれにしてもそこからの回復には時間を要し、長期のリハビリテーションが必要となることが多い病態です。

脳腫瘍

脳腫瘍は病理学的分類によると多岐にわたりますが、大きく分けると良性腫瘍と悪性腫瘍の2つに分けることができます。良性腫瘍の代表格は髄膜腫、聴神経鞘腫、下垂体腺腫の3つになります。髄膜腫以外の2つは生じる場所がそれぞれ聴神経と下垂体と呼ばれるところにできますが、髄膜腫はいろいろな部位にできますので、比較的容易な手術から著しく摘出が難しいものまで様々となります。良性腫瘍とは言っても、放置すれば大きくなることが多いので、小さくても観察は必要ですし、摘出が難しい部位の腫瘍については、定位的放射線治療(当院ではcyberknife治療を行っています。)と組み合わせることも選択肢の一つになります。

三叉神経痛・片側顔面けいれん

三叉神経痛、片側顔面痙攣のいずれも脳神経(三叉神経と顔面神経)が血管(多くは動脈ですが静脈のこともある)に強く圧迫されることで症状を出す疾患です。どちらも根治的な治療方法は「頭蓋内微小血管減圧術」と呼ばれる対象脳神経を圧迫する原因血管を対象脳神経から離して圧迫を取り除く手術治療です。いずれの疾患も放置したからといって生命に関わる疾患ではなく、痛みや痙攣による苦痛は本人にしかわからないもので、他覚的には深刻に捉えにくいものですが、手術によりこれらの症状が改善消失する喜びは、症状から解放された患者さんの言葉により特別なものであることを知らせていただいています。

三叉神経痛

「顔をナイフで刺されたように痛い」、「顔、歯が痛くて食事が食べられない」、「顔を焼火鉢に突っ込まれた感じ」「化粧や歯磨き、髭剃りをする時、顔が強く痛む」など顔の強い痛みでお困りの方はいらっしゃいませんでしょうか?もしかしたら、それは三叉神経痛かもしれません。

原因

三叉神経痛は三叉神経という顔の感覚を脳に伝える神経が血管によって強く圧迫されることで電気のショートのような現象が起き、顔面への軽い刺激でも増幅されてしまい、激しい痛みとして感じるようになります。

診断

症状と画像で診断します。頭部MRIやCTなどの断層撮影検査でどの血管(動脈や静脈)が神経に接しているかを診断します。当院では3D画像を構成し説明させていただくことで、患者さんに詳細に状態を把握していただく工夫をしております。

治療

根治的な治療方法は「頭蓋内微小血管減圧術」という、圧迫している血管を神経から離し、神経を減圧する手術治療です。有効性は70〜80%と言われ、奏功率が高い治療です。40年以上の歴史を持つ手術術式とはいえ、安定して提供することは容易ではない側面があります。当院ではこの手術のスペシャリストとして湖東記念病院 井上卓郎先生を招聘して密な連携のもと質の高い治療を提供しております。


▼三叉神経痛に対する頭蓋内微小血管減圧術の奏功率(治療後2年経過時点での無痛率)

過去の文献当院
奏功率約76%88.2%
NEUROSURGERY VOLUME86(2020)180-190
  • 当院での奏功率は2023年12月31日時点

その他の治療を以下に示します。全て姑息的治療(一時的症状の改善を期待する治療)になります。

薬物治療

カルバマゼピンという内服薬が有効なことが多いです。多くの患者さんは まずこの薬を開始し痛みをコントロールしますが、最初のうちは効いていても効果が乏しくなり、薬剤の増量に伴い眠気・ふらつきや薬疹など副作用が出る可能性があります。

局所注射

顔に局所麻酔などの注射をして顔の感覚を麻痺させることで痛みの緩和をはかります。効果は数ヶ月で、効果が継続している間、顔の感覚が鈍くなることが問題です。

放射線治療

三叉神経の根本に1点集中で放射線をあて疼痛緩和をはかる治療です。疼痛緩和率は5年間で50~60%であり、根治的な治療法ではありません。薬が効かない、副作用で飲めない、全身状態が悪くて手術ができない方、手術で治らなかった方などが適応になります。

片側顔面けいれん

「意思とは関係なく、片側の瞼や口周りがピクピクする」、「目を開けているのが辛い」など顔や口周りのぴくつきでお困りではないでしょうか?

原因

この病気は精神的なものではありません。脳から顔を動かす顔面神経が出ていますが、この神経が血管に圧迫されることで、その刺激がそのまま顔の筋肉に伝えられて筋肉が異常に痙攣を起こすようになります。

診断

症状と画像で診断します。

頭部MRIやCTなどの断層撮影検査でどの血管(動脈や静脈)が神経に接しているかを診断します。当院では3D画像を構成し説明させていただくことで、患者さんに詳細に状態を把握していただく工夫をしております。

治療

根治的な治療方法は「頭蓋内微小血管減圧術」という、圧迫している血管を神経から離し、神経を減圧する手術治療です。有効性は80~90%と言われ、奏功率が高い治療です。40年以上の歴史を持つ手術術式とはいえ、安定して提供することは容易ではない側面があります。当院ではこの手術のスペシャリストとして湖東記念病院 井上卓郎先生を招聘して密な連携のもと質の高い治療を提供しております。


▼片側顔面痙攣に対する頭蓋内微小血管減圧術の奏功率

過去の文献当院
奏功率約91%94%
J.Neurosurg. 2012, 26, 438-444.
Springer Nature: London, UK, 2020.
  • 当院での奏功率は2023年12月31日時点

その他の治療を以下に示します。全て姑息的治療になります。

薬物治療

クロナゼパム(抗てんかん薬の一種)が一部有効な場合もありますが、多くの場合不十分で効果的とは言えません。

局所注射

ボツリヌス毒素を眼輪筋など痙攣を生じている筋肉に注射をして痙攣を緩和させる手段です。適量が局所注射されることにより痙攣は止まりますが、徐々にその効果が薄れてきますのでそれに応じて痙攣が再燃してきます。薬剤の効果が薄れてくるからといって多めに注射すると顔面麻痺が生じてしまうためできません。効果は約3ヶ月程度で顕著に薄れてくるため、その度に繰り返し局所注射を行う必要があります。したがって、完全に痙攣がなくなっているのは適量が注射されてしばらくの間ということになります。「頭蓋内微小血管減圧術」という開頭術に伴うリスクがないということが最大のメリットになりますが、手術が無事に終わった時に得られる顔面痙攣が完全に消失した状態が持続する喜びを得ることはできません。

正常圧水頭症

特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)

くも膜下出血、髄膜炎などの先行疾患がなく、歩行障害を主体として認知機能、排尿障害をきたす、脳脊髄液吸収障害に起因した病態で、高齢者に多くみられ、緩徐に進行します。適切なシャント術によって症状の改善を得る可能性がある症候群です。

原因

多くのiNPH患者にシャント術が有効なことにより、その病態に脳脊髄液循環動態の異常が関与していると考えられますが、この脳脊髄液循環動態の異常をきたす病因は不明です。iNPH患者のほとんどが高齢者であるので、加齢が重要な因子であることが推測されます。

症状

歩行障害は91%、認知障害は80%、排尿障害は60%に認められます。歩行障害は歩幅の減少、足の挙上低下、開脚歩行が特徴です。認知障害は、初期より精神運動速度が低下し、注意機能、作動機能が障害されます。iNPHで障害される機能は前頭葉と関連する機能です。排尿障害は、尿意切迫、尿失禁が主体である過活動膀胱です。

治療法

現在、手術以外に高いエビデンスに支持された治療法はありません。手術法については、交通性水頭症に対する一般的な手術法と同様であり、脳室(Ventricle)腹腔(Peritoneal)短絡術(VPシャント術)、脳室心房短絡術(VAシャント術)、腰部くも膜下腔腹腔短絡術(LPシャント術)があります。

予後

シャント術後の症候の改善率は歩行障害が最も高く58~90%の範囲、認知障害は評価方法にもよりますが29~80%の改善率、排尿障害は20~82.5%の改善率が報告されています。しかし、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や脳血管障害との併存が多く見られ、その場合、症候の改善は一過性のことが多いようです。

当院では術者の手術適応に対するバイアスを除外するためリハビリテーション科と協力し客観的なタップテストの効果の評価を行っています。また必要に応じて脳槽シンチグラフィーやアクティーバルブを用いたドレナージテストや髄液の特殊検査などを追加し患者さんに不利益な治療は行わないよう取り組んでいます。(例えば不要な手術例として、認知機能障害が強く歩行障害のみ改善しても徘徊がひどくなったり、転倒リスクが高ければ頭部外傷の際に頭蓋内出血が重症化するなどが考えられます。)また他院で治療された患者さんの可変圧バルブにつきましてもCodman Hakim、Codman Certas、Medtronicストラータ、proGAV、Sophysa Polarisにつきましては院内にバルブ調節装置を常備しておりますのでMRI検査後やリビジョンが必要な際にはご相談いただけます。

脳脊髄液減少症

脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、症状を呈する疾患です。

外傷性(交通事故・スポーツなど)、医原性(脊椎手術・腰椎穿刺・整体治療など)など原因が明らかな場合もありますが、原因がはっきりしない場合もあります。

症状として、ほぼ全例に頭痛を認めます。典型的には起立して数分~数十分経つと引っ張られるような強い頭痛が出現し、横になると楽になる起立性頭痛をきたします。ほかに悪心嘔吐・複視・聴力障害・頚部痛・視野欠損・めまい・倦怠感などの多様な症状が引き起こされます。

症状などから脳脊髄液減少症を疑う場合、検査を進めていくことになります。頭部MRI検査では造影を行うことにより硬膜のびまん性肥厚が認められ、また静脈の拡張が見られます。脊髄MRI検査では漏出した髄液が硬膜外に貯留している所見が認められます。RI脳槽・脊髄液腔シンチグラムは、腰部から細い針を刺入して脳脊髄液腔まで穿刺します。脳脊髄液腔に放射性同位元素(RI)を注入し経時的に撮影を行います。くも膜下腔外にRIの漏出像が認められた場合は診断価が高いと考えられます。また、腰椎穿刺の際に脳脊髄液圧の測定を行い、60mmH2O以下の場合は脳脊髄液減少症の可能性があります。

治療はまず1-2週間のあいだ厳重な安静臥床とじゅうぶんな水分補給(1,000~2,000ml/日の点滴)を行います。このような保存的治療だけでもかなりの割合で症状の改善が見られます。保存的治療では症状の改善が得られない場合は、硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ)を行います。これは患者さんの腕の静脈から採取した10~30mlの血液を脊髄硬膜外腔に注入します(当院麻酔科医師の協力を得て麻酔科医師により行われます)。注入した血液が固まることにより髄液の漏出を防ぎます。治療後、数日間の安静が必要です。また、脊髄硬膜外腔に生理食塩水を単回もしくは複数回注入したり、硬膜外チューブを用いて持続的に注入を行う場合があります。

この疾患は一般的に予後良好とされていますが、慢性期症例では改善に数カ月以上かかる場合もあり、脳脊髄液減少症が疑われる場合は早めに受診することをお勧めします。当院は、脳脊髄液減少症の診療可能な京都府内の7医療機関の1つです。

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